切なく心に染みる恋愛小説:田辺聖子「孤独な夜のココア」。
こんばんは、志帆子です。
作家の田辺聖子さんが6日に91歳で死去されたと、昨日のニュースで知りました。
田辺聖子(たなべ せいこ)
1928年3月27日 - 2019年6月10日
大阪市生まれの作家。樟蔭女子専門学校卒業。1964年『感傷旅行』で第50回芥川賞、1987年『花衣ぬぐやまつわる……』で女流文学賞、1993年『ひねくれ一茶』で吉川英治文学賞を、ほか菊池寛賞、泉鏡花文学賞、読売文学賞、蓮如賞、朝日賞など受賞多数。2000年に文化功労者、2008年に文化勲章を授与される。その他の代表作に、映画化された『ジョゼと虎と魚たち』、『道頓堀の雨に別れて以来なり』、『田辺聖子の小倉百人一首』など。2006年のNHK朝の連続テレビ小説「芋たこなんきん」で主人公のモデルとなった人物でもある。2019年6月6日、胆管炎で逝去。享年91歳。
「新源氏物語」、「三十すぎのぼたん雪」、「鏡をみてはいけません」、
「孤独な夜のココア」等。
「孤独な夜のココア」は12編の恋愛小説です。
20代後半から30歳くらいの女性が主人公なのですが、ちょうど、私が同じような
年齢の頃に読んでいました。
あなたとめぐり合うことができて、よかった。同じ時間を過ごすことができて、よかった。今ではすべてがもう夢のように思われるけれど……。心の奥にそっとしまわれた、甘苦い恋の記憶を、柔らかに描いた12篇。恋の温もりと儚さ、男の可愛げと女の優しさを、こまやかな言葉の網で掬いあげ、世代を超えて心に沁みわたる、田辺聖子の恋愛小説。そのエッセンスが詰まった、珠玉の作品集。
発売日:1983/03/29
今から30年以上前の作品です。それなのに、今読み返してみても
色褪せることがありません。
主人公のほとんどは、当時ハイミスと呼ばれた20代後半の働く独身女性ですが、
現在でいうところの30代から40代に当たるかもしれません。
どちらかと言うと切ない結末が多いのですが、関西弁の口調で、あっけらかんとして
いる感じがあって、春は来るよねと思えます。
田辺聖子さんの選ぶ言葉にユーモアがあって、そこも魅力の一つです。
「エイプリルフール」
会社の同僚のきよちゃんと恋愛関係になり妊娠をしてしまうのですが、
きよちゃんの優しさに心が温かくなり一番好きなお話です。
「春つげ鳥」
不倫の恋愛なのに、後味の悪さがない。2人の会話が楽しくて、結末は悲しい
はずなのに希望を感じさせてくれます。
「ひなげしの家」
主人公の叔母さんの一途な愛を目撃して、主人公はこう思います。
本文よりーわたしは生涯のうち、いくつになってもいいから、双方から愛し
愛される恋にめぐりあいたいと思っている。片思いの恋や、条件つきの結婚ではなく。
いさぎよく切ない愛の強さを感じました。
「ちさという女」
本文よりーこういう女になろうと、自分に似合わしく設計して少しずつ、それに
近づくようにためたり修練したりしてゆく、それを、私はひそかに、(年齢化粧)
とよんでいた。
年齢化粧をしているちさは、仕事熱心で親切だが、下品で押し付けがましい。
老後とそのためのお金のことで頭がいっぱいなのだが、意外な一面を見せるところが
憎めません。