体外受精の着床前検査「染色体異常が7割」という現実。
おはようございます、志帆子です。
いつも訪問いただきありがとうございます。
『東洋経済新聞の2019年3月』に、
体外受精の着床前検査に関する記事がありました。
35歳から42歳を対象にした臨床試験において、
体外受精の着床前検査での「染色体異常が7割」という
結果だったとのことです。
胚盤胞のグレード基準での妊娠率から、
妊娠に繋がる確率が高くはないことは
知っていましたが・・・、
この記事を読み、
なんとなくわかっていたことであるはずの
厳しい現実を受け止めました。
受精した胚盤胞の全てに異常が見つかった方の中には、
治療をやめて赤ちゃんを諦めた方もいたようですが、
治療を続けた人にとっては、治療のスピードアップに
繋がったようです。
私の不妊治療をしている友達は、
現在、8回目の採卵に挑もうとしています。
3個の胚盤胞を凍結している状況ですが、
どうしてもあと一つ凍結しておきたいという理由です。
この記事の結果からも、私たちの年齢では、
4個あっても決して多いとは言えません・・・。
だから、彼女の選択はすごく真っ当だなぁと
改めて思いました。
体外受精の着床前検査「染色体異常が7割」
以下、2019年3月23日の東洋経済新聞の記事です。
体外受精の着床前検査「異常が7割」という衝撃
本来は「禁断」の臨床研究から得られたこと
「私が不妊治療をやめたのは、調べてもらった胚の全部に染色体異常が何カ所もあったからです」
体外受精を目的として、42歳のときに採卵した3個の胚を調べた佐藤香織さん(44歳、仮名)は言う。染色体異常は、子宮に戻す前の段階で、胚(受精卵)の染色体本数を調べる「着床前検査(異数性検査=PGT-A)」の臨床試験で、明らかになった。
今、日本は、全出生の18人に1人にあたる年間約5万4000人もの体外受精児が生まれる不妊治療大国になっている。
体外受精は、排卵誘発剤を使用して複数成熟させた卵子を手術室で体外に採り出す。それを培養室で精子と合わせ、うまく受精が起きれば生命の奇跡の始まりだ。
胚は、最初はたった1つの細胞だが、それが2つになり、4つになり、8つになる。5日もすれば、数百個の「胚盤胞」という状態にまで発育し、顕微鏡下で透明なブドウのようになってきらきらと光る。その様子を、今ではタイムラプス画像で見せる施設もあるが、まさに命の神秘的なエネルギーを感じさせるものだ。
高年齢の女性が陥る「胚の染色体異常」
しかし、現実の体外受精では、このような画像に心躍らせながら胚を子宮に戻しては、次の瞬間に「天国から地獄」の衝撃を味わう人が少なくない。原因の筆頭は「染色体異常」。実は、命は胚の段階では染色体異常を持つものが多く、それはごく一部の例外を除いてまもなく消えてしまう。妊娠反応が出て、気持ちがもっと舞い上がったあとで、流産してしまうこともある。こうしたことは、女性の年齢が上がるほど増える。
今の体外受精は、見た目や発育状況から子宮に戻す胚を選んでいるが、染色体のことは外側からいくら眺めてもわからない。そこで始まったのが、胚から一部の細胞を採取し、染色体を調べて、本数が違うものは子宮に戻さないようにする「着床前検査(異数性検査=PGT-A)」だった。
着床前検査について、日本産科婦人科学会はこれまで原則として、重篤な疾患の診断を行う検査のみ、審査のうえで一部だけ容認してきた。だから一般的な胚の検査は本来「禁断」だったわけだが、この検査の不妊・不育症への有用性を調べるとして、臨床試験を開始。約2年の月日をかけ、結果が大体見えた2018年末に行われた暫定値発表は、衝撃的としか言いようがないものだった。
臨床試験は、学会に認定された実績あるクリニック4カ所で得られた、見た目はよいと判断された胚が調べられたのだが、染色体本数が正常だった胚はたった3割ほどしかなかった。
日本では今、胚を子宮に戻す「胚移植」が全国で年間25万回以上も行われているが、その多くが、実は、染色体異常胚を戻しているということになる。
今回の臨床試験は35歳から42歳という年齢の高い女性を対象にしたので、正常胚がここまで少なかったのだろう。とはいえ、日本の体外受精は、この年齢層がボリュームゾーンだ。
冒頭の香織さんにとって臨床試験への参加は、治療の幕を引くきっかけとなった。香織さんも、子どもを望みながら年齢が高くなってしまった女性のひとりだった。
香織さんがかかっていたセント・ルカ産婦人科(大分県)の宇津宮隆史院長によると、今回の臨床試験は、クリニック全体としてもかなり厳しい数字だった。
同施設からは17人の患者が学会に承認され、全部で42個の胚が解析に出された。そのうち、染色体本数が正常と判定された胚は、わずか8個しかなかった。率にして、わずか31%だ。多くの胚が生まれる見込みがまったくない胚で、複数の染色体に過剰や不足があったものもたくさんあった。
当然ながら、香織さんのような、子宮へ戻せる胚がひとつもなかった人は多く、胚移植に進めた人は17人中7人しかいなかった。検査後、新たな胚を作ろうと採卵からやり直す人もいたが、一方では、香織さんのように、なかなかやめられなかった治療を終結させた人も、何人か出た。宇津宮院長は、海外の先行研究から推し量って「半分くらいは戻せると思っていた」と言う。
だが、検査の意義は、あったと考えられる。治療を続けた人は、すぐに次の採卵ができて治療がスピードアップした。
着床前検査をしなければ、今回検査された胚はほとんどが子宮に戻されていただろう。そうしていたら、患者たちは、胚移植の不成功や流産の精神的苦痛、経済的負担に耐えなければならなかった。
体外受精は自費診療なので、同クリニックで胚移植を行うと1回戻すだけで20万円ほどかかる。宇津宮院長は、そこには公的補助金も使われていると指摘する。
「当院で公的助成金を受けた治療周期を調べたところ、3分の2は、妊娠していない周期に支払われていました。国や自治体も、限られた財源をもっと効率よく使わなければ」
また、不妊治療は、必ず妊娠という形でゴールインするわけではない。「不妊治療で最も難しいのは、治療をやめる決心」とつねづね言われていることを思うと、治療を卒業するきっかけがつかめた人がいたことも、検査の恩恵に数えあげていいのではないだろうか。
着床前検査は「デザイナーベビー」になるのか?
学会は、これから、臨床研究の結果をふまえて倫理的な議論をしていくと言っている。
着床前検査は、異常がある胚を戻さないのは命の選別であるという理由で厳しく規制されてきた。PGT-Aは基本的に生まれない胚を見つける検査なのだが、わずかとはいえ、生まれうる胚も除外されてしまう点が問題視されている。さらに、この検査は親が子どもの能力や外見を決める「デザイナーベビー」の入口だと警戒する声もある。確かに、人の心には「こんな子が欲しい」という欲があることは否定できない。すでに、国によっては、着床前検査は男女産み分けの方法にもなっている。
しかし、「命の選別」をめぐる議論は、羊水検査の反対運動までさかのぼり、それは高度経済成長のまっただ中だった1970年代のこと。当時はほとんどの人が20代で出産しており、高齢妊娠や不妊に悩む人はとても少なかった。
宇津宮医師の下で臨床試験に参加しようとしたが、基準をわずかに満たさず承認されなかったある女性は言った。
「『命を選ぶな』というのは、簡単に妊娠できる人の意見だと思う」
この女性は5年の治療歴があり、19個も胚を戻してきたが、取材の時点では、まだ子どもを抱けていなかった。不妊検査では何の異常も見つからず、妊娠するかもしれない胚を繰り返し子宮に返し続けてきて、まもなく40代に入ろうとしていた。今、着床前検査を望んでいるのは、このような、子どもを選ぶどころか、たったひとつの命を授かることもできず幾歳月を費やしている人たちだ。
これからの倫理的議論は、今、生殖年齢にある人たちの厳しい現状を理解した上で、本当に必要な規制は何かを考えていくべきだろう。
引用:体外受精の着床前検査「異常が7割」という衝撃 | ニッポンの出産は安心・安全なのか | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
できる限り若いうちに妊娠・出産のプランを
この論文(Franasiak JM, et al: Fertil Steril 101, 656-663, 2014)は多くの症例を扱っているので、とても信頼性が高いデータだと考えています。この論文によると、異常な染色体を持つ胚盤胞率は年齢により異なり、一番低値を示す年齢は、26~30歳とされており、異常率は20%台とされています。この年齢よりも年齢が若くても高齢でも、異常率は上昇します。30歳前半では、約30%で、35歳以上になると異常率はどんどん上昇し、40歳では約60%、42歳では約75%、44歳では約90%に達します。一番低値の26~30歳で、胚盤胞期に達した胚でも、約20%の胚は異常胚であることには驚かされます(図1)。
年齢による胚盤胞の染色体異常の割合
異常な染色体を持つ胚盤胞率は年齢により異なります。
こちらに関するデータがありましたので、引用させて
いただきましたが、通常の貼り付けができなかったため、
文字が小さくて申し訳ありません。
26〜30歳:20%台
30歳前半:約30%
40歳:約60%
42歳:約75%
44歳:約90%
胚盤胞(受精卵)の染色体異常の原因
精子や卵子で異常が起こると、受精卵がトリソミーなどになります。
そして、その受精卵から増殖する細胞は同じ異常を受け継ぐので、その個体としてもトリソミーとしての臨床症状を示すことになります。
前にも述べたように、これらの染色体異常は精子や卵子を作る過程でも起こりますが、女性の年齢の上昇に伴って異常をもつ卵子の頻度が急激に高くなります。(一方、男性の年齢上昇に伴う染色体異常の増加はほとんどないと言われています。)
すなわち、どの夫婦も染色体異常の胎児を妊娠する可能性がありますが、高齢女性は染色体異常の胎児を妊娠する頻度が高くなりますので、それに伴って流産の頻度も高くなります。
現実をきちんと知った上で、移植に臨みたいと思いました。
なんとなくわかってはいたものの、調べてみるとやっぱり
厳しい現実でした。
ほんとに、この年齢になると妊娠、出産は奇跡としか
言いようがないです。
着床前診断は、アメリカでは自由に行われています。
ただ、わずかでも、生まれうる胚も排除されてしまうため、
命の選別になるという難しい部分があります・・・。
せめて、数回の移植で妊娠しなかった場合だけでもいいから、
日本でも着床前検査ができるようになるといいなと思ってしまいます。